日外アソシエーツの出版物で、雑誌や新聞に掲載された書評や、著編者による自著紹介を記したブログです。
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「企業不祥事事典―ケーススタディ150」
齋藤憲監修 2007年7月刊
定価5,800円(本体5,524円)
A5・500頁 ISBN978-4-8169-2061-5
案内サイト:
http://www.nichigai.co.jp/sales/company_scandal.html
「信用を得るには100年、失うのは一夕」といわれます。不祥事によって、多くの従業員が路頭に迷います。
タイトルは、ずばり、企業不祥事事典、といたしました。編集の意図は、監修の齋藤憲先生の文章に委ねるとしますが、この「監修に寄せて」も含めまして、本書のセールスポイントを幾つか列記したいと思います。
なお、全体150のケースを載せ、それを、ガバナンス-経営者関与、ガバナンス-従業員関与、製造物責任、日本型企業風土、報道機関の使命欠如、の5つのカテゴリーに分け、分類しております。
1)戦後のパースペクティブ、すなわち、この60年余りの我が国の経済・産業、企業の発展と紆余曲折の視座のなかで本テーマを捉えています。
日本的経営すなわち、終身雇用・年功序列、品質管理追求というパラダイムのなか、Japan as no.1 といわれ、その後のいわゆる「バブル崩壊」から現在に至る動き、外資席巻やM&Aで受身的対応を迫られ、新しいパラダイムを創出しえず、もがき苦しんでいる、というこの企業社会の一断面を、いわば「負」の検証から捉えたつもりです。
巷間には、最近の事例をもとに一方的にスキャンダラスな面を暴いたり、来る内部統制の法律に対応の照準をあわせたもの、あるいは企業の社会的責任(CSR)の今日的な観点からの分析という本も多く見受けられますが、それらを読む上での事実関係の基本的資料という面も持たせました。
2)掲げた不祥事の一連を注意深く見ていきますと、いわゆる「内部告発」から明るみに出た、ということが分かります。2004年に「公益通報者保護法」が公布され、それはいまや、従業員は忠誠を尽くす、会社は一生面倒見る、という我が国の成長期経済を支えたスローガン・終身雇用が崩壊していることの一端が示されているように思います。現在は会社発展の為の高い規律や企業への帰属意識が持ちにくくなっています。
このような新しい図式のなかでの企業不祥事報道を、忠実に追ったつもりです。
3)事後に関係者の処分・報酬一律カット、という横並び的対処や、対応を誤り、燎原の火のように事が大きくなっていく様が叙述されています。
さらに、不祥事を真摯に受けとめ、あたらしい対応をする様も積極的に入れています。
マイナス情報も含めた徹底した情報開示などリスク回避の具体的な方法論を求めるためにも、その道しるべ・リスクマネジメントの手段となりうると思います。
3代に亘ってこの会社に勤めています、と誇らしげに語る従業員に出会うことがあります。企業人は「会社のため」に働き、それは一部「エコノミックアニマル」「企業戦士」と揶揄されて今日まで来ました。この不祥事からは、確かにそうだと思われるものものから、さらには企業人の哀切さまでもが垣間見えます。
本書によって、企業社会が日本的な企業システムから脱却し、あらたなパラダイムに立ち、フェアーな市場において、高い安全意識や規律を取り戻すことの一助になればと希うものです。
朝日 崇(日外アソシエーツ編集局)
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