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日外アソシエーツの出版物で、雑誌や新聞に掲載された書評や、著編者による自著紹介を記したブログです。

   
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『鉄道・航空機事故全史』紹介(植村達男)

20431.jpg 「鉄道・航空機事故全史
 災害情報センター・日外アソシエーツ共編 2007年5月刊
 A5・510頁 定価8,400円(本体8,000円)
 ISBN978-4-8169-2043-1
 案内サイト:
 http://www.nichigai.co.jp/sales/accident.html

 人間のミス、システムの欠陥、安全の無視、経営の錯誤等と様々な原因で事故は発生する。事故を未然に防ぐための方法の一つとして、過去の事故例から学ぶという方法がある。
 
 本書は「シリーズ 災害・事故史」の第1巻として災害情報センター、日外アソシエーツ共編のもと刊行された。
 共編者の一つである災害情報センターは、早稲田大学に本拠を置くNPO法人。事故・災害の事例約13万件、関連文献60万件をデータベース化してインターネットで提供している。月刊災害情報、安全・事故事例事典等を発行してきた。また、災害に関する研究会やシンポジウムも開催してきた。
 一方の共編者の日外アソシエーツは出版社。同社は、『昭和災害史事典』『平成災害史事典』等、事故・災害に関する多数の出版物を刊行している。

 本書は、明治以降130年間にわたる日本の鉄道事故・航空機事故が対象。全体は次の二部構成となっている。
 
 第I部 大事故の系譜
  53件の鉄道・航空分野の大事故を取り上げ詳説する
 第II部 鉄道・航空機事故一覧
  その他2300件余の事故を年表形式(簡単な解説付)で記載

 第I部の鉄道事故に関しては、JR福知山線脱線・転覆(2005年)、信楽高原鉄道で列車正面衝突(1991年)、常磐線三河島付近列車三重衝突(1962年)、西成線安治川口駅で列車脱線・転覆・炎上(1940年)等の鉄道事故について、その事実経過、被害状況、関連情報が詳説されている。
 また、航空機事故については、日航機ニアミス事故(2001年)、日航ジャンボ機墜落・炎上(1985年)、大韓航空機撃墜(1983年)、全日空機と自衛隊機空中衝突(1971年)、日航「木星号」三原山に衝突・墜落(1952年)等が扱われている。事故状況に関する解説の手法は、鉄道事故の場合と同様である。
 
 第I部(大事故系譜)では地図や図表も掲載され、読者の理解を助けてくれる点が有り難い。関連文献が掲載されていて、更に深く探求する場合のガイドとなっている。また、第I部では事故発生までの経過が、時間を追って淡々と客観的に描かれている。決してセンセーショナルなものではない。読者は、あくまで鉄道事故や航空機事故に関する専門家を想定しているからだ。関連する文学作品等の引用が、ところどころに登場しているのも興味深い。引用文には、井上ひさし氏、猪瀬直樹氏の名前も散見される。
 
 一方、本書の第II部(鉄道・航空機事故一覧)は、各事故に関する情報量は第I部に比べると少ない。少ないケースでは三行ぐらいの叙述しかないこともある。その代わり、件数は極めて多い。件数が多いだけあって、事故防止のためのヒントは随所にあるといってよいだろう。
 第II部の冒頭に掲載されているのは、100年以上昔の明治5年(1872年)10月14日、「鉄道開業式」当日に発生した事故である。新橋駅で、線路に立ち入った見物人が、“灰落としピット”に転落した。その見物人はピットから立ち上がろうとしているところを機関車に轢かれた。以上が事故の概要である。この極めて古い事故に関して様々に思いをめぐらすと、21世紀初頭の今日でも防災上役立つヒントがいくつも出てくるに違いない。
 
 本書の推薦文を、ノンフィクション作家・柳田邦男氏が寄稿している。タイトルは「教訓の『水平展開』の宝庫」というもの。ここに使用された「水平展開」という用語は、やや分かりにくい。しかし、本文を読むと柳田氏の意図は容易に理解できる。他社や他業界で発生した事故を分析・研究していくと、自社の事故防止のためのヒントが得られる。「水平展開」という用語を使用することにより、柳田邦男氏は大小を問わず“過去の事故の分析と吟味”の必要性を説きたかったのだ。

 本書は、単に事故史を記録するための目的で編纂されたものではない。将来に向けての防災・安全・事故防止のために資する。そのような高度の目的をもって出来上がっている。本書の冒頭の9ページ以下に掲載されている「総説」には、「事故の歴史を眺めてみると、特徴的な事故の系譜があることに気付く」として、次の9項目を列挙している。

 1.再発防止策から外れたところで起きた事故
 2.再発防止策が中途半端だったために起きた事故
 3.再発防止策が裏目に出て起きた事故
 4.事前トラブルを承知しながら対策を打たずに招いた事故
 5.対策が間に合わずに起きた事故
 6.人と装置の相互作用が招いた事故
 7.原因の推定が困難だった事故
 8.焦りが招いた事故
 9.相互不信が引き起こした事故

 以上の各項目については、具体的な事故の例示がある。鉄道・航空業界において、防災・安全・事故防止に携わる人々にとって本書はまさに座右の書。常に身近において折に触れて参照されることを勧めたい。

 また、損害保険会社の社員や代理店にとっても、極めて多方面にわたる仕事上のヒントを与えてくれる参考書となるであろう。具体的な事故を念頭において保険を勧める。これが営業活動において重要なことである。本書により、大事故、地元で起きた事故などの概要を頭の中に入れて(必ずしもその全てを披瀝する必要はない)セールス活動する。その方が、あやふやな知識で「事故やリスクを語る」よりも説得力があると考える。これが本稿筆者の読後感だ。

(U)
                           インシュアランス損保版 7月号第4集より転載
 

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