日外アソシエーツの出版物で、雑誌や新聞に掲載された書評や、著編者による自著紹介を記したブログです。
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「神」の業の悦ばしさ―三井徹編『ポピュラー音楽関係図書目録』
日本で過去に出版されたポピュラー音楽に関する図書の総覧として、軍歌、浪花節からロック、ラップに至る、1886年以来2008年まで国内で刊行された6701点を網羅している。ちなみに全体のちょうど半分(3351点め)は『自由・平等・ロック』ティモシー・ライバック著、水上はる子訳(晶文社、1993年7月、481頁、4800円)であり、そのまた半分(1676点目)は『雑学歌謡昭和史』西沢爽著(毎日新聞社、1980年10月、341頁、1500円)がきていて、数の上では平成年間に出た本が全体の約6割を占める。
書名、著編者名、キーワードの三つに分別された索引は総計169ページ。「著編者」の索引は、著・編・訳・述・選・共著・共訳・監修・共同監修・日本語版監修・対談・パネリスト・インタビュー・絵・写真・企画制作などの別が書いてあって、例えば1957年の20番目に記載されているのは芦野宏が実際に書いた単著なのだということが索引から分かるし、その項目を見ると『パリの空の下』という本の説明に「フランス紀行文42編他」とあるのでどんな本かもわかる。(ちなみにウィキペディアの「芦野宏」の項目や、amazon検索で、この本は調べがつかない。bk1には「購入できません」として載っているが、どんな本かはわからない。)
ケンブリッジ大学出版局から出ている学術研究誌Popular Musicに、三井氏は毎年、その年日本で出版されたポピュラー音楽関連本を載せていたが、その累積成果に、民音音楽資料館や国会図書館から得られた情報が加わってここまで膨らんだ目録の誕生となった。本当は、一見音楽の本とは見えないタイトルのなかに思わぬ論考や資料が埋もれている本も発掘したかったのだろう。「そうした文献を網羅する作業は個人の時間と労力の範囲を超えて」いると、「まえがき」でしぶしぶ認めておられるところが感動的である。
附録の“Writnings in English on Popular Music in Japan”の305点のリストには国際ポピュラー音楽学会会長もつとめられた編者の意地と願いのようなものが感じられる。
三井氏の著書『新着洋書紹介―ポピュラー音楽文献5000冊―』の仕事を知る者にとって、あの目を眩むような仕事と同時並行して、これを続けてきたというのは気が遠くなるはなしだが、「マニアック」という感じはまるでしない。ここにあるのは、執着というのとは正反対の、むしろ世界の全体を見守るCreatorのあわれみに似た何かであるような気がするのだ。
人文系の学問は、本当は「科学」(専科に分かれた学)ではない。人間の営みを扱うなら「個」を論じつつも絶えず「全」に根を張っていなければ、真の意味での「質」の保証は得られがたい。その点、新たな学問分野を拓いてきた会員がいまだ現役で活躍を続けるJASPMは恵まれていると思う。形なき混濁から学問分野が拓かれる時代には、産み出されるものすべてを見渡す神々の視点が存在するのだということを、改めて味わうことのできる本目録は、まさにニーチェ的な意味で「悦ばしき」達成だ。(佐藤良明)
「日本ポピュラー音楽学会(JASPM)ニューズレター」第81号(2009年9月)の紹介記事(p9)より
ポピュラー音楽関係図書目録―流行歌、ジャズ、ロック、Jポップの百年
三井徹〔編〕
定価12,915円(本体12,300円) 2009.6刊
A5・530p ISBN978-4-8169-2190-2
書名、著編者名、キーワードの三つに分別された索引は総計169ページ。「著編者」の索引は、著・編・訳・述・選・共著・共訳・監修・共同監修・日本語版監修・対談・パネリスト・インタビュー・絵・写真・企画制作などの別が書いてあって、例えば1957年の20番目に記載されているのは芦野宏が実際に書いた単著なのだということが索引から分かるし、その項目を見ると『パリの空の下』という本の説明に「フランス紀行文42編他」とあるのでどんな本かもわかる。(ちなみにウィキペディアの「芦野宏」の項目や、amazon検索で、この本は調べがつかない。bk1には「購入できません」として載っているが、どんな本かはわからない。)
ケンブリッジ大学出版局から出ている学術研究誌Popular Musicに、三井氏は毎年、その年日本で出版されたポピュラー音楽関連本を載せていたが、その累積成果に、民音音楽資料館や国会図書館から得られた情報が加わってここまで膨らんだ目録の誕生となった。本当は、一見音楽の本とは見えないタイトルのなかに思わぬ論考や資料が埋もれている本も発掘したかったのだろう。「そうした文献を網羅する作業は個人の時間と労力の範囲を超えて」いると、「まえがき」でしぶしぶ認めておられるところが感動的である。
附録の“Writnings in English on Popular Music in Japan”の305点のリストには国際ポピュラー音楽学会会長もつとめられた編者の意地と願いのようなものが感じられる。
三井氏の著書『新着洋書紹介―ポピュラー音楽文献5000冊―』の仕事を知る者にとって、あの目を眩むような仕事と同時並行して、これを続けてきたというのは気が遠くなるはなしだが、「マニアック」という感じはまるでしない。ここにあるのは、執着というのとは正反対の、むしろ世界の全体を見守るCreatorのあわれみに似た何かであるような気がするのだ。
人文系の学問は、本当は「科学」(専科に分かれた学)ではない。人間の営みを扱うなら「個」を論じつつも絶えず「全」に根を張っていなければ、真の意味での「質」の保証は得られがたい。その点、新たな学問分野を拓いてきた会員がいまだ現役で活躍を続けるJASPMは恵まれていると思う。形なき混濁から学問分野が拓かれる時代には、産み出されるものすべてを見渡す神々の視点が存在するのだということを、改めて味わうことのできる本目録は、まさにニーチェ的な意味で「悦ばしき」達成だ。(佐藤良明)
「日本ポピュラー音楽学会(JASPM)ニューズレター」第81号(2009年9月)の紹介記事(p9)より
ポピュラー音楽関係図書目録―流行歌、ジャズ、ロック、Jポップの百年
三井徹〔編〕
定価12,915円(本体12,300円) 2009.6刊
A5・530p ISBN978-4-8169-2190-2
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